「コンテナ化と神戸港の港運サービス」

                                                                   下 條 哲 司  
大阪産業大学教授  

1.はじめに
 平成10年度私たちは平成9年度の神戸港のハブ機能強化策に続いて、主として港頭地区における港運サービスの振興策について調査研究を行っている。神戸港のハブ機能が相対的に低下してきたという危機感は、今回のテーマにおいても引き継がれており、日本全体がお先真っ暗な不景気の長期化にあえいでいる時期であるとはいえ、如何ともしがたいやり場のない深刻な気分を醸し出している。
 コンテナ化が始まる以前の神戸港は、日本全国外航船舶入港量の約12%を受け入れ、輸出入貨物についても全国のほぼ6.8%を取り扱ってきた(昭和40年)。昭和40年代のはじめにコンテナ化の進展が見られるようになって以後も、昭和50年には船舶の10.6%、外貿貨物の4.9%、昭和60年にはそれぞれ10.5%、5.6%、さらに平成6年でも船舶の10.0%、貨物の5.2%を引き受けてきた。ところがこの数字は阪神淡路大震災の影響を受けて、平成8年にはそれぞれ8.4%、3.8%に下がってしまった。(数字はすべて神戸港大観による)
 これをコンテナだけについてみれば少なくとも震災前まで神戸港は日本の他の港を先導していたかのようである。(第1表参照)コンテナ化率(外国貿易取扱量におけるコンテナ取扱量の割合)についてみても神戸のそれはピーク時(平成6年)の輸出で80%を越えており、輸入においても73%に迫っていた。コンテナ化率では東京の方が高いが、震災前の数量から見れば神戸のコンテナ貨物量は群を抜いていたといえる。

2.コンテナ化の効果
 そもそもコンテナ化の直接的な動機は陸上輸送を担当している陸運会社にとって輸送メディアごとに貨物を積み替える手間を省こうというものであったといわれている。昭和41年アメリカの海陸運送を営んでいたシーランド社が、大西洋に初めてのフルコンテナ船を配船した。大型トレーラーを船に積むときヘッドとシャーシーを外して箱だけにしたものを考え出したのである。
このコンテナー化の傾向は貨物単位の大きさだけに留まらず、国際的な流通の多くの局面で、まさに革命と呼んでもよいくらいの大きい変革をもたらすほどの事件であったことがやがて明らかになってきた。積み地では舷側のふ頭で貨物を受け取り、揚げ地では舷側のふ頭で貨物を引き渡すといった在来の方式に代わって、コンテナー方式では必要ならばコンテナーの行ける所は何処ででも貨物を受け取り引き渡すことができるのである。このことによって永年の流通業界の夢であるdoor to doorの実現が可能になる。port to portの Transportation に代わってTransdoorationの実現という人さえあった。
 このアイデアは海運会社にとっても願ってもない変革であった。船舶のスピード競争から30ノットを超すような高速定期貨物船の配船を余儀なくしていた海運会社は、航海日数が短縮しても滞港時間が減少しないためにますます船舶の運航効率が悪くなるのをどうすることもできなかったが、コンテナ化すれば荷役時間は大幅に短縮されることになる。当面投資額が馬鹿にならなかったけれども、スペースチャーターという協同運航方式を発明することによってこの変革に乗り移ることが出来た。
交通機関を構成する要素として、容器、動力、通路の3つが挙げられる。コンテナー船のもたらした最も重要な改革はこれらのうち容器と動力の2つを完全に分離したことである。これらを分離することによって、動力であるコンテナー船と容器であるコンテナーとが全く別個に行動することができ、積み揚げ荷役の間、港に停泊している必要は全くなくなった。これに加えて積み荷の単位を20フィートの均一の大きさをもったコンテナーとすることによって、荷役作業を標準化し機械化することが容易になる。在来定期船の泣き所であった停泊時間は、これによって大幅に短縮することができる。停泊時間が短縮できれば、船舶の航海速力を向上させた場合の効果は顕著となり、所要日数や出帆頻度さらにスケジュールの正確さなどの質の改善を実現することができる。4隻あれば太平洋航路でウイークリーサービスができるようになったのも、コンテナー化のメリットの一つというべきである。
 すべての貨物をコンテナーに収容することになれば、コンテナーに冷凍や除湿など種々な機能を付け加えることによって、ある種の貨物が要求する特殊貨物設備を提供することも容易になるし、貨物の種類にかかわらず雨中荷役もでき、貨物の滅失や損傷の危険性も著しく減少することになる。したがってこのことは海運企業にとっても荷主にとっても非常に目覚ましい改善であった。
 コンテナー時代の到来が国際物流業界に与えた影響はこれだけに留まらない。舷側での受渡しという在来の定期船サービスが、内陸のCFS(Container Freight Station)での受渡しになったということは、海上輸送サービスの範囲が舷側からCFS まで延長したということであり、その間に必要とされる諸費用が、海上運賃に含まれることになったということである。特にCY(Container Yard)で受け取るFCL(Full Container Load) の貨物の場合は、工場で箱詰めすればコンテナーの使用料も一定期間は無料であり、包装費やマーキングの費用も節約できる上に、運賃割引をも受けることができる。
3.港運サービスへの影響
 コンテナ化の進展はこのようにすばらしい成果をもたらしたと言うことが出来るが、そのことはあらゆる面においていえることではない。どんな場合でも新しいものの出現は古いものの淘汰を生む。企業における合理化やリストラでも、一方においては確かにいい方向への改革ではあるが、隠れたところに犠牲が必ず存在する。コンテナ化の進展によって港湾運送サービスのうち、特に港頭地区における仕事の量は大きい影響を受けざるを得なかった。
港頭地区とは港運業の仕事の場であるCFSや海貨上屋あるいは営業倉庫を擁する特殊な地域で、在来のバラで運ばれていた雑貨類はすべてこれらの施設を経由して船舶と内陸の荷主施設との間を運ばれていた。第1図の「港湾を経由する流れ」はコンテナ時代の貨物の流れであり、コンテナを扱うCYと、コンテナから雑貨を取り出し、あるいは雑貨をコンテナに詰め込むCFSが特徴である。(ただし港頭地区についての明確な定義はなく、神戸では国道2号線の南側といった程度の線引きが行われている。)
 問題はCYと荷主施設との間のコンテナの流れが、在来の雑貨の流れに比較して港運業の提供するサービスをどの程度利用するかと言うことである。コンテナ化のメリットである door to door という特性をフルに利用するとすれば、第1図の「港湾を素通りする流れ」のような経路でコンテナが流れることは言うまでもない。こうした流れへの傾向は当然のものであるとしても、港運業にとっては生死の問題である。
 このような傾向は本来予定されているものとして受け入れるとしても、私たちの調査は今でも港運業のサービスに対する需要は残っているところに着目して、そうした需要を温存し、さらに喚起して港運業の活性化に役立てたいと考えるものである。そのためにはコンテナの港湾素通りの現状を把握し、何がその傾向を阻止しているかを子細に観測する必要がある。
4.港頭地区利用の現状
 まず港頭地区における港湾運送業によって提供されているサービスの利用状況についてみておく必要があるだろう。昨年7月27日から8月2日にかけて私どもが実施した実態調査の結果、神戸港外貿公社バースにおいて取り扱われた外貿コンテナ貨物は輸出11,905個、輸入11,346個(いずれも20フィートコンテナに換算)であったが、このうち港頭地区の施設を利用したものは輸出で49%、輸入で37%であった(第2図参照)。従来この種の調査はなかったために明確な数字としては現れていないが、これらの比率は年々減少しているものと見られている。
 このような港頭地区利用率の減少傾向の原因はいったい何なのであろうか?もとよりコンテナ化の動機からして減少傾向は避けられないとすれば、コンテナ化が進めば進むほど港頭地区の仕事量は減って行くことになる。しかしここではコンテナだけの流れを見ているのであるからコンテナ化の進展そのものは論外である。
 コンテナの大型化、すなわち20フィートコンテナから40フィートコンテナへの移行傾向によって、港頭地区での取り扱い比率が影響されるかも知れない。現在20フィートと40フィートとの割合は輸出で2対3,輸入で1対2であるが、20フィートだけで見ると港頭地区での取扱量の方が多くなっている。
 一般に一種類で同じ仕向地に行くような貨物の場合、量さえまとまれば大型のコンテナの方が有利である。40フィートが多くなるということはそういう貨物が増加したことを意味しているが、それはまた非混載の貨物の増加をも意味する。非混載コンテナは輸出で92%、輸入で95%に上っているが、このことはまた港頭地区での取り扱いの減少傾向の理由にもなっている。ちなみに混載貨物の88%(輸出)、62%(輸入)は港頭地区で取り扱われている。
 ところで非混載輸出貨物はどこでバン詰め(コンテナへの積み込み)されているのかを見ると、46%が港頭地区となっている。また非混載の輸入貨物はその35%だけが港頭地区でバン出し(コンテナからの取り出し)されている。
 コンテナに詰め込まれる貨物の種類はコンテナの種類にも影響するが、特殊コンテナやリーファーコンテナなどは内陸にある特殊な場所でバン詰めバン出しが行われることが多いと思われる。そうしたコンテナの割合はまだそれほど多くはないが、明らかに増加の傾向がある。
 また通常のコンテナの場合でもそうした特殊な取り扱いを必要とする貨物の種類が増加しているようである。輸出では輸送機械、紙パルプ、ゴム製品など、輸入では林産品、紙パルプ、肥料、化学工業品などがそのような部類に属し、その3分の2以上が内陸部で取り扱われている。
 いずれにせよコンテナのルートを決定するのは荷主であるが、輸出の46%をしめる製造業、輸入の61%をしめる商社の意向は重要である。輸出における製造業の港頭地区利用は30%に過ぎず、輸入における商社のそれは37%程度に過ぎない。これらのことも今後なお持続する傾向ではないかと思われる。
5.素通り傾向の理由
 ところで以上のように港頭地区での作業を避けて、内陸部の施設で必要な作業を行うには、それなりの理由があるはずである。輸出貨物をコンテナに詰めて船積みするまで、また輸入コンテナから貨物を取り出して最終商品に仕立てるまで、どのような手続きが必要になるか、この種の仕事を流通加工と呼んでいるが、そのうち港頭地区で受けることの出来る作業はどれだけあるか。こうした作業を掘り出すために私たちは荷主を対象にしたアンケートを実施した。
 まず流通加工という仕事の内容だが、港運業が従来主として行ってきたものを別にすれば、検品、包装、仕訳・詰め合わせ、値札付けなどは港頭地区と内陸とほとんど場所を選ばず可能である。一方組立、調合、切断・研磨・折り曲げ、消毒・滅菌などは港頭地区では適当でない作業として上げられている。
 このような流通加工作業を含めて、荷主にとってその効率化と物流コスト削減で重視することは、アンケートでの重要度の順で言って次の通りであった。
 ◎輸送距離短縮でコスト削減
 ◎経由施設削減でコスト削減
 ◎在庫管理コストの削減
 ◎荷役作業に関わる人件費の削減
 ◎流通加工コスト削減
 ◎現地化による人件費の削減
 ◎物流管理コストの削減
 ◎共同化の推進
 ◎外部委託費の削減
 ◎施設整備コストの削減
 ◎その他
 ところでこれらの目標を達成するために、輸出貨物をバン詰めするのに港頭地区と内陸とのどちらの施設を利用する方がよいかについて聞いてみると、経由施設削減とか、物流管理コストを重視する荷主は港頭地区でバン詰めする方を選び、輸送距離短縮、在庫管理、荷役作業に関わる人件費等を重視する荷主は内陸でのバン詰めを選ぶ傾向が強く出ていた。
 また輸入貨物のバン出しについては、荷役作業に関わる人件費や流通加工コストの削減を重視する荷主は港頭地区内でバン出しする方を選び、輸送距離短縮や在庫管理コストの削減を目指す荷主は内陸でのバン出しを選ぶ傾向がある。
 さらに私たちは荷主たちが考えていることをもう少し具体的に理解するために、港頭地区でのバン詰めやバン出しが有利な理由、あるいは不利な理由を尋ねてみた。もちろん内陸との比較においてのことだから、港頭地区での不利な点は内陸の方が有利という意味である。
 まず輸出貨物に関して、港頭地区でバン詰めをする方が有利と見る理由としては、事務処理・手続きが手軽、自社管理の負担が少ない、他社と混載を行う必要がある、トラブルが少ない、施設整備コストが抑えられる、流通加工コストが抑えられる、多様な貨物に対応できる、等の項目が20%を越えている。
 一方港頭地区にコンテナで搬入する方が有利、すなわち港頭地区の施設は使わない方が良いという理由としては、人件費を低く抑えられる、トラブルが少ない、リードタイムが短い、品質維持面で安心、流通加工コストが抑えられる、時間変更に柔軟に対応できる、多様な貨物に対応できる、事務処理・手続きが手軽、等が20%を越えていた。
 輸入貨物に関しては、港頭地区でバン出しをした方がよいとする理由として、他社と混載を行う必要がある、トラブルが少ない、自社管理の負担が少ない、輸送距離が短くなる、サービスが充実している、施設整備コストが抑えられる、という理由が挙げられている。
 また港頭地区からコンテナのまま搬出する方がよいとする理由としては、人件費を低く抑えられる、流通加工コストが抑えられる、トラブルが少ない、品質維持面で安心、リードタイムが短い、事務処理・手続きが手軽、等が挙げられている。
 以上はそれぞれ回答数の20%を越すものだけをその順序で示したが、中でも最も突出していたのは、コンテナを素通りさせる理由として輸出入ともに「人件費」の問題であっていずれも60%を越していた。この問題は港頭地区の一つの泣き所であって、港湾労働法によって港頭地区の労働が硬直化されていることによるものである。この問題がある限り港頭地区での作業を活性化することは非常に難しいといえる。
6.あとがき
 最後に、荷主が今後港湾運送業あるいはもっと一般に物流事業者に望むところを聞いてみると、案の定コスト削減とサービス内容の充実と言うことであった。労働集約的な港湾ないし物流事業者にとって、コストの問題はほとんど人件費の問題であり、上でも言うとおり非常に厳しい要請といえる。
 一方サービスの内容充実という問題については、小回りの利く対応とかコンサルティング能力を高める、あるいは作業効率や迅速性を高めるなどと言う限りは、耳を傾け工夫を凝らす必要は十分ある。むしろこの点だけは港湾ないし物流事業者としても何とか対応できる方向であると思われる。

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