「『あしたのふるさと・但馬』づくりに向けて」

                                                                   安 藤 隆 一  
兵庫県但馬県民局企画調整・防災担当参事  

T はじめに
 我が国の社会システムは、所得水準の向上、自由時間の増大などを背景とし、これまでの成長を前提とした「経済性」「効率性」優先から生活重視へのシステム転換の必要性が高まっており、個性的で自由な活動を求める本格的な成熟社会へと移行しつつある。
 また、人々の意識や価値観も生産中心・量的価値重視から、ゆとり、環境、安全・文化など人間中心・質的価値重視へと変化している。
 このような変化に対応しつつ、自然と調和し、但馬のもつ温かい人と人とのつながりを実感できる「あしたのふるさと・但馬」の実現に向けて、住民をはじめ県・市町一体となって様々な取り組みを展開している。
 主なプロジェクトを中心にその内容を紹介したい。

U 但馬地域の現状
 但馬地域は面積2,133平方キロメートルと県土の約1/4を占めているが、人口は約204千人(平成10年国調)と県全体の3.7%にすぎず、人口の減少が続き、近年はその傾向も鈍化しつつあるものの、1市18町のうち12町が過疎地域の指定を受けている。
 また、高齢化率は24%(平成10年2月1日現在)と県平均の15.6%を大きく上回っており、高齢化率が30%を超える町が3町あるなど、将来の超高齢社会を先取りしている。
 産業の純生産額は約5,700億円(平成7年度)で全県の3.8%となっている。伝統的な地場産業は地元経済への貢献度は大きいが、労働力依存型工場が多いため付加価値は小さい。事業所数は約2,000で29人以下の小規模企業が全体の約93%を占めている。
 平成9年度の観光客の入り込み数は約1,000万人(うち宿泊客約300万人)で、観光消費額は1,062億円と総生産額に占める比率は全県で一番高く(13.9%)、観光産業が地域の主要な産業となっている。

V 但馬地域の課題
 但馬地域はこれまで、海、山、温泉などの恵まれた地域資源を活用し発展してきたが、気候等自然条件の制約や都市・生活基盤整備の遅れなどから若年層の流出による過疎化・高齢化が同時進行している。
 このため、自然環境との調和を進めながら、にぎわいのある快適な生活空間の創出、産業の高度化及び多様な雇用機会の創出による定住性の向上とともに、高齢者をはじめとするすべての人々が安心して生きがいを持って暮らすことができるシステムの構築が求められている。
 また、京阪神など都市部との交流促進や産業拠点の形成による地域振興を図るために交通網の整備を進め、交通利便性の高い地域づくりを進めていくことも必要である。
 さらに、豊かな自然資源、特色ある伝統文化、特産品など地域の個性を最大限に生かし創意工夫による特色ある地域づくりを推進する必要がある。

W  「あしたのふるさと・但馬」づくりに向けた主な取り組み
1 但馬地方拠点都市地域の指定
 県では平成6年9月13日に但馬地域1市18町を地方拠点都市地域に指定し、その後地元が主体となって但馬地方拠点都市地域基本計画を策定(平成7年10月9日承認)した。
 これを契機に、但馬はひとつとの認識が高まるとともにこの計画に基づき、従来の都市づくりとは異なる「人と自然」「人と人」が共生する「あしたのふるさと」づくりに向け、地域発展の核となる但馬空港周辺など9地区の整備推進とともに、地域振興のための社会基盤整備に取り組んでいる。

2 但馬長寿の郷
 住民のニーズや価値観が「ものの豊かさ」から「こころの豊かさ」へと変化するとともに、超高齢社会を迎えるなかで、高齢者をはじめとするすべての人々が真に長寿を喜び合える社会づくりが求められている。そのためには、将来にわたり住み慣れた家庭や地域で健康で安心できる生活が送れ、かつ生きがいを持って暮らせる社会を構築し、超高齢社会を明るく活力のあるものにしていかなければならない。
 こうした長寿社会の構築をめざし、その拠点施設となる但馬長寿の郷が平成10年9月(交流体験施設、宿泊施設については12月)にオープンした。
 但馬長寿の郷は、過疎化と高齢化が同時進行する但馬地域において、県、市町、民間が従来の枠組みを超え、保健医療福祉サービスの水準を向上させるとともに、但馬と都市部との世代を越えた交流の促進により、すべての人々が自己の個性と能力を最大限に発揮し、生きがいを持って生涯を過ごすことができる理想的な長寿社会の構築を支援する基盤施設で、すでに約20,000人(平成10年11月末現在)の利用があった。

3 コウノトリの郷公園(仮称)
 特別天然記念物であり、県鳥でもあるコウノトリの保護・増殖を行うだけにとどまらず、人工飼育しているコウノトリを野生に復帰させるための専門的な調査研究を行うとともに、野生化への取り組みを通じ、人とコウノトリが共生できる環境づくりについての学習の場ともなる複合的な施設として、コウノトリの郷公園(仮称)の整備を進めており、平成11年度に一部開園の予定である。
 コウノトリが再び但馬の大空を羽ばたくためには、周辺地域を含めた地域全体で人と自然の共生できる環境を創造していくことが必要である。
 コウノトリが野生で生活できる環境は人間にとっても好ましい環境であり、これを実現するためには、有機農業や動植物を慈しむ住民活動の裾野を広げることが必要であり、コウノトリの郷公園は保護と地域の活性化の両立をめざす、人と自然の共生を実践するリーディングケースになるものと期待している。

4 但馬ドーム
 自由時間の増加とともに、余暇ニーズもゆとりとうるおいを求め、自然の中での学習やスポーツ活動への指向が高まるなど多様化しつつある。
 10月に神鍋高原にオープンした但馬ドームは、こうしたニーズに応え、神鍋高原で自然の中でゆったり滞在しながら多様なスポーツを通じて心身をリフレッシュできる「全県的な野外スポーツ」の拠点となる中核施設で、四季を通じて天候に左右されず計画的に利用でき、周辺の施設との相乗効果により、一大レクリエーションゾーンの形成につながるものと大きな期待が寄せられている。

5 「あしたのふるさと」づくりに向けたソフト事業
(1)但馬ふるさとづくり協会の取り組み
 平成6年度に開催した「但馬・理想の都の祭典」で培われた地域間交流を継承発展させ、また、祭典でのノウハウ等を今後のまちづくりに生かしていくため、平成7年10月、但馬1市18町と民間の各種団体が参画して財団法人「但馬ふるさとづくり協会」が設立され、民間、行政が一体となって創意工夫による地域づくり事業を展開している。
 地域づくりを進めるに当たっては、但馬を知り、地域づくりをリードしていく人材の育成が不可欠であり、また、但馬の理解者、新しい但馬づくりの良き協力者となる“交流人”の創出が必要であることから、平成8年度「但馬ふるさとづくり大学」を開設し、「但馬人コース」、「交流人コース」の2コースで、114人(平成8、9年度)が卒業している(平成10年度113人在学中)。
(2)但馬観光アクションプログラムの策定
 但馬の総生産額に占める観光消費額の割合は、約14%(平成9年度)と観光産業が地域の主要産業として地域の活性化に大きな役割を果たしてきた。しかしながら、観光入込客数は「但馬・理想の都の祭典」が開催された平成6年度の約1,300万人をピークに年々漸減傾向にある。
 観光客のニーズも特定目的重視や体験型、学習意欲を満たすものなどへシフトしてきており、自然資源に依存するだけでなく、ニーズの多様化に応え自然と共生した但馬を舞台に、来訪者、住民、事業者が相互交流し合う中で自分のふるさとと思えるような愛着の生まれる地域を創造していくことが求められている。
 このため、但馬の観光資源をこれからの時代に向けて大きく前進させるための対策と戦略を盛り込んだ但馬観光アクションプログラムを平成10年度中に策定し、さらなる観光の振興を図っていくこととしている。
(3)景観形成の推進
 良好な景観の形成は、地区の特性を生かした周囲の環境の向上及びまちづくりに関する住民意識の向上につながるものである。
 県では自然や歴史と調和した美しいまち並みを保全・創造し、魅力のある景観の形成を図るため、「景観の形成等に関する条例」を制定し、先駆的な景観行政を展開している。
 現在、但馬地域においては次の5地区(地域)を地区(地域)指定し、町、住民一体となって優れた地域景観の保全、創造に努めている。

6 但馬多自然型地域づくりビジョンの策定
 「全国総合開発計画−21世紀のグランドデザイン−」においては、一極一軸構造から多軸型国土づくりへ転換し、中小都市や中山間地域を含む農山村等豊かな自然環境に恵まれた地域を新たな21世紀のフロンティアと位置づけ、都市的なサービスとゆとりある居住環境、豊かな自然を併せて享受できる誇りの持てる自立的な圏域として「多自然型居住地域」の創造を提唱している。
 こうした流れと軌を一にして、過疎と高齢化が同時進行している但馬地域の活性化に向けて、但馬の最大の特徴である豊かな自然を生かし、但馬地域の人々が但馬のすばらしい自然に誇りを持ち、地域を愛する心を育むとともに、人と自然が共生した新しい但馬の地域づくりの指針となる「但馬多自然型地域づくりビジョン」を平成10年度から平成12年度までの3カ年で策定し、行政、住民、事業者が一体となって「あしたのふるさと・但馬」づくりを推進することとしている。
 策定に当たっては、行政、住民、事業者がそれぞれの取り組みの中で、「多自然」をキーワードに地域の総意としての具体的な考え方と地域住民が果たすべき役割を明確にするため、フォーラムをはじめ住民の主体的な参加のプロセスを大切にしたいと考えている。

X おわりに
 こうした「あしたのふるさと・但馬づくり」のための様々な取り組みを通じ、将来に向け精神的な豊かさを実感できる社会的な事象も含めた新たな自然を創り出し、あるいは失われた自然を蘇らせることにより、人間らしい本然の姿に立ち戻ることができ、地域住民にとっては住んで良かったと思え、また、地域に魅力を感じ、都市住民が自然とのふれあいを求めて訪れる「人と人」「人と自然」「人と社会」が共生する地域づくりを、204千人の総意で進めていきたいと考えている。

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