神戸医療産業都市構想_
神戸市震災復興本部総括局
復興推進部 主幹 三 木 孝
1. はじめに
神戸は、港の発展とともに製造業を中心として日本経済を牽引する基幹産業が育ってきた地域です。しかしながら、国内外の社会経済環境が大きく変化する中で、量産部門の市外転出など製造業を中心に空洞化が進み、さらに平成
7 年 1
月の阪神・淡路大震災で甚大な被害を受けたうえ、日本経済の不況とも相まって、神戸の経済活動は、震災前の概ね8割程度に止まっており、極めて厳しい状況にあります。
こうした中、既存産業の高度化・新産業の創出・ベンチャービジネスの育成や雇用の受け皿としての企業誘致などを通じた本格的経済復興が神戸の最重要課題となっています。
平成 9 年 5
月に閣議決定された「経済構造の変革と創造のための行動計画」によれば、我が国の医療・福祉産業分野の市場規模は、1997年の38兆円から2010年には91兆円と2.4
倍になると見込まれ、21世紀には市場・雇用規模が最も大きくなる成長産業と予測されています。
特に、医療機器、医療材料、製薬等の医療関連産業については、市場規模も格段に大きく、電子機器・機械、新素材、情報処理、ソフトウエア等をはじめとして関連する産業の裾野が広いという特性を持っており、幅広い関連産業への波及効果が期待されています。
2. 医療関連産業の現状(海外との比較)
医療に関しては、欧米と日本では制度が大きく異なっています。アメリカの公的保険は高齢者と低所得者を対象としており、加入者は全国民の25%程度となっています。民間保険に頼っているアメリカでは、競争原理が働き、いかに安いコストで良い医療を提供するかで製薬、機器、情報も含めた高度医療技術が発展し、巨大な医療機関の集積が生まれています。
例えば、アメリカのヒューストン市にあるテキサスメディカルセンターは、世界最大の医療機関集積の
1 つであり、675 エーカー(270ha) の敷地に100
以上の建物が立地し、約5万人が雇用され、石油を抜いてヒューストン市の最大産業となっています。また、ワシントンDC郊外・メリーランド州セスダにあるNIH(National
Institutes of Health)は敷地面積 300エーカー(120ha) 以上で、24の研究所等から構成され、年間予算は
156億ドル (1999年)
で世界最大の医学・生命科学研究機関であり、その周辺には医療関連企業群、ベンチャー企業集積などが形成され、アメリカにおける代表的な医療産業集積地となっています。さらに、ミネソタ州北部のロチェスターからセントポーリアへ至る
300マイルにおよぶメディカル・アレイと呼ばれる地域には、約 8,000の医療関連企業が立地しており、ミネソタ州のヘルスケア産業全体で約25万人の雇用者がいます。
一方、日本では、国民皆保険制度が完備している反面、診療報酬体系をはじめ制度が硬直的になり、病床規制や病院経営の制限等により医療に関する競争と新規参入が制限されているため、医療関連産業では、アメリカに比べて立ち遅れている面もあります。
具体的には、カテーテル等の処置用機械器具や画像診断用装置といった医療機器について、昭和63年と平成
8 年の市場規模を比較すると輸入は 2,711億円から 7,094億円と161.6
%の激増、生産は 1 兆1,093 億円から 1 兆4,561 億円へと 31.3
%の増、国内出荷は57.1%の増、輸出は44.1%の増で、輸入依存率が極めて高くなっています(図表-1)。
また、国内で製造されていない医療機器も多く、例えばペースメーカーは、ほぼ
100%輸入で、価格を海外と比較すると日本では 140万円程度、アメリカでは80万円程度、ヨーロッパでは20〜40万円となっており、この内外価格差は日本の医療費が高い要因の一つとなっています。
医薬品産業についても、大幅な輸入超過(図表-2)となっています。また、新しい医薬品の開発活動状況を国内の治験件数の推移(図表-3)からみると、1991年がピークで、その後は新薬価格の抑制策や新GCP(医薬品の臨床試験(治験)の実施に関する世界標準基準)施行の影響等により急速に減少しており、医薬品産業の研究開発活動全般の空洞化、ひいては医療水準全般への影響が懸念される状況となっています。
3. 我が国における今後の医療システムの発展シナリオ
日本では現在、医療保険制度の抜本的改正と規制緩和が検討されており、診療報酬体系への効率性の導入や病院経営の自由化等、制度的に欧米の水準に近づくことが見込まれています。こうした環境変化に伴い、医療分野のビジネス化の進展が予想されています。
今後の我が国の医療分野の発展に向けては、従来のような医療技術の部分的な導入ではなく、治療技術、それを支える材料工学、情報工学、バイオ技術、管理・経営手法等幅広い分野にわたる医療技術の総合的発展とイノベーションの創出を促す展開が必要です。そのためには、民間企業の積極的な参入をサポートする行政・大学・医療機関等の仕組みが必要となります。
4. 関西圏及び神戸市の地域ポテンシャル
関西圏は、京都・大阪・神戸大学をはじめとする多数の大学、国立循環器病センター、(財)大阪バイオサイエンス研究所、(財)高輝度光科学研究センター(SPring-8)等の集積や伝統的な製薬産業及び新産業の集積があり、生命科学分野では研究面、産業面において、我が国随一の集積を誇っている地域です。
その中でも神戸市は、@高度なインフラストラクチャー(神戸港、神戸空港、高速道路、関西国際空港への優れたアクセス等)、A豊富な医療関連の技術的資源(神戸・大阪・京都大学等我が国有数の工学部・医学部を有する国立大学、WHO神戸センターなどの世界的研究機関、市立中央市民病院をはじめとするレベルの高い医療機関等)、B機械金属工業、電子、化学工業、新素材関連産業の集積、C情報通信産業の成長基盤(神戸国際マルチメディア文化都市(KIMEC)
構想、光ファイバー網の整備等)
、D外国企業にも最適なビジネス環境(外国人向けの住宅・学校・病院・宗教施設等の充実)といった地域資源を有しています。
5. 神戸医療産業都市構想
神戸市では、21世紀の成長産業である医療関連産業に関して、海外の事例を参考にしながら、また神戸が持つ地域特性を十分に活用して、「次世代の医療システムの構築」を通じて、「医療サービス水準と市民福祉の向上」を図るとともに、「医療関連産業の集積と既存産業の高度化」を目指す『神戸医療産業都市構想』を推進しています。
同構想については、昨年10月に中央市民病院の井村院長を座長として、京都・大阪・神戸大学の医学部長、国立循環器病センター総長、神戸市医師会会長、兵庫県等をメンバーとし、さらに厚生省・通産省にもオブザーバーとして参画いただいた「神戸医療産業都市構想懇談会」を設置し、今後我が国で積極的に取り組むべき医学分野、産官学及び医療現場の連携のあり方と市の担うべき役割、海外との連携のあり方、事業化に向けての提案及びスケジュールなどについて検討をいただき、本年
4 月に「報告書」が出されたところです。
報告書では、構想の基本的な考え方として次の 4
点が上げられています。
第 1
は医療関連産業の集積形成に不可欠な「臨床研究を行う中核的な医療機関の設置」です。先端的な臨床研究の場の提供は医療関連企業にとって大きな魅力になります。第2は「地域の医療機関との連携と市民への高度な医療サービスの提供」です。世界標準ルールに基づく治験環境が未整備な日本で、先行的に大学医学部や地域医療機関と共同で治験ネットワークを整備することにより、魅力的な臨床研究と大規模な商品開発が可能になると考えられます。第
3
は「医学界・産業界の連携と産業化の仕組みづくり」です。産官学の連携・産業化のためには、起業化支援のための施設やサービスの整備、柔軟な組織体制の構築が必要となります。第
4 は、これら 3
つの機能・仕組みによる「新産業の創出と地域製造業等への波及」です。
6. 構想の中核的施設
以上のような基本的な考え方に基づき、神戸医療産業都市構想の中核的施設として、@医薬品や医療機器等の研究開発機能と治験など臨床研究全般を支援する「(仮称)先端医療センター」、A医薬や機器等の技術及び医療経済学的評価・普及機能、ビジネス支援機能、インキュベート機能からなる「(仮称)メディカルビジネスサポートセンター」、B人材育成支援機能を担う「(仮称)トレーニングセンター」の
3 つの施設が提案されています。
中核的施設の中でもさらに核となる先端医療センターは、立地条件・病床数・医療内容の観点から市立中央市民病院に隣接して整備する予定です。同センターは関西の国立大学・研究機関、地域の医療機関、医療関連企業、さらに海外の大学・研究機関と連携し、先端的な診断・治療機器とレベルの高い医師等のスタッフを備える施設であり、主な研究テーマは、臨床試験(治験)、細胞・遺伝子治療、医療・介護機器の
3 つで、いずれも21世紀に大きな成長が期待されている分野です。
同センターについては、現在のところ、医療用画像診断機器メーカーであるGE横河メディカルシステム社から提案のあった「(仮称)映像医学センター」と臨床研究支援(CRO)のトップ企業であるクインタイルズ・アジア・インク社から提案のあった「(仮称)臨床研究支援センター」の
2 つのテーマが予定されています。
まず、映像医学センターでは、最先端の画像診断装置を中心に「映像医学」という新しい分野での研究開発を行います。具体的な活動内容としては、@映像・画像機器を中心とした高度な診断機器・治療機器の研究開発、A脳神経をはじめ内科全般、整形外科等幅広い科目での映像・画像情報を活用した先端的臨床研究及び先端医療の実践、B医薬品及び機器の治験及び評価を行います。
また、臨床研究支援センターでは、地域の医療機関との連携のもとに、@治験コーディネーターの教育研修や派遣、Aサイトマネージメントセンター、データマネージメントセンターの設置、B被験者募集・情報提供、C生物統計学に関する教育・研修の実施、D共同の治験審査委員会機能の提供などを実施し、治験を中心に臨床研究を支援し、新しい医療技術の創出をバックアップします。
7. 事業化に向けてのスケジュール
構想の実現に向けては、先端医療センターを早期に立ち上げる必要があります。そのため、今年度は国内外の医療関連企業、京阪神の大学、国公立研究機関及び医師会等の医療関連主体、国・県・市など産官学の関連主体で構成する(仮称)神戸医療産業都市構想研究会を設置し、構想の具体化の方策を検討するとともに、中央市民病院の中での機器開発や治験コーディネーターの派遣等のモデル事業も開始いたします。さらに平成12年度には事業の推進主体となる財団法人(第
3
セクター)の設立と中央市民病院の近隣の既存・仮設施設を活用した治験専門の診療所の開設により一部事業を開始し、平成14年度には、先端医療センターの整備・開設による本格的な事業展開を予定しています。
なお、メディカルビジネスサポートセンターとトレーニングセンターについても、概ね平成17年を目処として立ち上げることとしています。