みなと銀行の誕生と兵庫県民のくらし

神戸大学経済学部教授
滝 川 好 夫

T はじめに
 本稿では、新生「みなと銀行」のディスクロージャー誌「MINATO BANK1999」を手掛かりに、兵庫県の生活者の視点から、みなと銀行を展望します。
 いくつかの都市銀行でディスクロージャー誌を手に入れた経験があります。「ディスクロージャー誌を欲しいのですが。」と窓口でお願いすると、窓口に座っている女性が「少しお待ち下さい。」と言って、後ろの上司に相談します。上司は「そのようなものたしかあったなあ。」と女性に言い、さらに後ろで幾人かでのディスクロージャー誌捜しがはじまります。その間、尋ねた私は変人を見るがごとく目で見られ、漸く上司の人が「これが当行のディスクロージャー誌でございます。」と実に丁寧に応対して下さる経験がほとんどです。神戸市内のある信用金庫では、ディスクロージャー誌を入手するのに支店長さんに名刺を要求されたことがあります。
 「MINATO BANK1999」は、「銀行法」第21条に基づいて作成されたディスクロージャー資料(業務および財産の状況に関する説明書)です。どの銀行のディスクロージャー誌も装丁は立派すぎるぐらい立派なものですが、自己責任を求められる生活者にはあまり読まれていないもののようです。この小稿では、このような取り扱いを受けている「ディスクロージャー誌」を手掛かりに、みなと銀行の誕生と兵庫県民のくらしのかかわりを論じてみたいと思います。
 また、これを機会に是非とも、生活者のみなさんには取引金融機関のディスクロージャー誌に目を通していただきたいと思います。21世紀においては、生活者(消費者・預貯金者・投資家・中小零細企業経営者など)は保護の対象ではなく、権利の主体者となり、自己責任を求められるようになります。ディスクロージャー誌を読んだ上で、取引銀行の経営方針を理解し、また同銀行に言うべきことは言って、生活者の意見が銀行経営に反映されるようになることを願っています。これは「ガバナンス(企業統治)の問題」です。

U みなと銀行のあゆみ
 「MINATO BANK1999」の「みなと銀行のあゆみ」の記述は、「昭和24年 9 月の七福相互無尽株式会社設立」で始まり、「平成11年 4 月の株式会社みどり銀行を合併、株式会社みなと銀行に商号変更」で終わっています。
 みなと銀行は、いままで合併の経験のない阪神銀行が、幾多の合併を行ってきたみどり銀行を吸収合併して生まれた銀行ですから、「昭和24年 9 月の七福相互無尽株式会社設立」で始まっているのでしょうが、ここでは、若干の史実の補足説明を行い、これからの地域金融機関の再編問題を展望しておきたいと思います。というのは、再編の問題は歴史的パースペクティブで考えるべきものだからです。
 旧兵庫銀行の前身は大正元年(1912年)10月設立の三木市の三木勧業株式合資会社です。三木無尽株式会社に改組された同社は、姫路市の山陽金融無尽株式会社と合併し、山陽無尽会社が誕生しました。同社は全国無尽会社中第4位の規模でした。
 昭和12年 7 月の日中戦争(日華事変)以降の経済統制下、無尽会社は一府県数社主義、一府県一社主義、さらには一経済地域一社主義の合同が求められ、大蔵省・日本銀行は住友銀行の協力の下で近畿地方の無尽会社を統合しようとしました。すなわち、住友銀行がまず大阪に本社を置く近畿無尽株式会社(現在の近畿銀行)の株式の過半数保有と役員派遣を行い、それに続き、兵庫県下の3社(東亜・神戸大同・山陽の 3 無尽株式会社)との統合をはかろうとしました。19年 6 月には、3 無尽会社が合同して兵庫無尽株式会社が創設されました。その間、同年 1 〜 3 月にかけて近畿無尽は 3 社の株式過半数を買収するとともに、山陽無尽に対しては社長を除く役員全員近畿無尽側より就任させていました。3無尽会社はともに近畿無尽株式会社の傘下に入り、同年末頃を期して近畿無尽に合併することになっていましたが、敗戦に伴う財閥解体・集中排除の抜本的改革により実現しませんでした。19年末の全国無尽会社総数は63社で、兵庫無尽会社は全国無尽会社中第 3 位の規模でした。
 兵庫無尽株式会社(旧兵庫銀行)の創設により、一県一無尽会社の原則は達成されましたが、24年 9 月には神戸市生田区に七福相互無尽株式会社が設立されました。26年10月には、七福相互無尽は株式会社七福相互銀行、兵庫無尽は株式会社兵庫相互銀行に商号変更されました。さらに、七福相互銀行は41年10月株式会社阪神相互銀行に改称され、両相互銀行は平成元年 2 月普通銀行に転換し、それぞれ阪神銀行、兵庫銀行になりました。平成7 年(1995年)8 月、兵庫銀行は経営破綻し、営業はすべてみどり銀行に譲渡されました。そして、11年 4 月 1 日、阪神銀行がみどり銀行を吸収合併して「みなと銀行」が誕生しました。

V 「県民銀行」
 「MINATO BANK1999」の「ごあいさつ」の中で、芦尾長司会長・矢野恵一朗頭取は、「 4 月 1 日、みなと銀行は“県民銀行”をめざし新たなスタートをいたしました。」と述べておられます。「県民銀行」とは、「地元企業の育成を考え、努力していくことにより地域経済の発展に貢献する」銀行と考えられているようです。
 いま、兵庫県経済と「県民銀行」としてのみなと銀行の大きさを考えましょう。国内総生産・県内総生産(単位:億ドル)は、

 日本     45,954
 英国      11,532
 東京都     7,865
 韓国      4,847
 大阪府    3,705
 愛知県     3,158
 神奈川県   2,814
 兵庫県    1,928
 トルコ      1,814

 であり、大阪府下の有人店舗、預金(億円)、貸出金(億円)(平成11年3月末)が、

有人店舗 預金 貸出金
大和銀行

住友銀行

三和銀行

 79 → 3行連合:228

 83 → 2行連合:141

 88

 53,341 → 84,701

 53,341 → 84,701

 78,971

 50,426 →77,666

 88,629 → 95,679

 75,338

であるのに対して、みなと銀行(平成11年3月末)は、

有人店舗 預金 貸出金
みなと銀行  147  21,425  17,335

です。兵庫県の県内総生産が大阪府のほぼ1/2であることから考えれば、みなと銀行の兵庫県経済に対するウェイトは大和銀行並みですが、3行連合(大和、近畿、大阪銀行)、2行連合(住友、関西銀行)、三和銀行のほぼ1/2です(ただし、上記のみなと銀行の数字には県外のものを含んでいますので過大評価になっています)。
 大和銀行は関西のスーパー・リージョナル・バンクをめざして、近畿銀行、大阪銀行との包括的提携、さらには3行での金融持ち株会社設立も視野に入れているようです。みなと銀行が「県民銀行」(兵庫県のリージョナル・バンク)をめざす場合、その規模は「ニッキン」の中で、矢野恵一朗頭取が貝原俊民兵庫県知事の話を引用して5兆円という数字を挙げておられますが、上記の大阪府の例示からは4〜5兆円ぐらいであることが分かります。問題は、みなと銀行の規模を県民銀行のスケールにするために、いかに倍増させるかです。

(1) 柳沢伯夫・金融再生委員会委員長は、IMFのカムドシュ専務理事の地域金融機関再編見通しについての質問に、国内に特化した都銀であるあさひ銀行(東京)、東海銀行(名古屋)、大和銀行(大阪)に地域金融機関が垂直提携するなどして再編が進むと答えています。再編がこの方向で進むならば、日中戦争以降の経済統制下で「一経済地域一社主義」の合同が求められ、近畿圏で住友銀行が核になろうとしたように、今回は大和銀行が核になるのでしょうか。事実、みなと銀行誕生の過程においても、歴史は繰り返されるもので、大蔵省は近畿地区の第二地方銀行(旧相互銀行)を中心に4〜7行を大同合併させる構想を抱いていたと言われています。
 柳沢委員長は同時に「各地域の中核行のほかに競争行も残す。」と述べておられ、これは敗戦に伴う財閥解体・集中排除の抜本的改革により「一経済地域一社主義」が実現しなかったのと同じ精神であり、そのことはカムドシュ専務理事が地域金融機関再編の過程では適正な競争の確保も重要であると指摘したと言われていることと共通しています。

(2) 旧阪神銀行はさくら銀行と関係が深く、「MINATO BANK1999」からは、 みなと銀行の筆頭株主はさくら銀行であることが分かります。旧兵庫銀行は住友銀行と関係が深かったのですが、みなと銀行では、住友銀行は第一勧業、富士、東京三菱、三和、大和銀行と並んで第 6 位の株主です。関西圏下の大和銀行のスーパー・リージョナル・バンク戦略に対して、兵庫県の金融経済をどのようにデザインしていくかは、みなと銀行、さくら銀行などにとっての課題だと思います。

(3) 金融機関・金融システムの再生は、つねに金融機関の再編問題であったことは歴史が教えているところです。しかし、本稿は、兵庫県の金融経済、兵庫県民のくらしの視点から、次の3つのことを提案したいと思います。
A みなと銀行の経営原理を「コミュニティー(地域との共存・共栄・共生)」に求め、地域経済がみなと銀行を育て、スケール・アップさせることを願っています。
B 日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の 3 行は金融ビジネスごとの金融持ち株会社を設立します。金融持ち株会社の形態は通常このようなものと思いますが、本稿は地域単位ごとの金融持ち株会社の設立を提案したいと思います。関西圏、近畿圏を一つと考える「スーパー・リージョナル・バンク構想」は地域の特性を生かせないように思います。それぞれの地域の金融機関の独立性を維持しながら、規模の経済を追求するためには、地域単位ごとの金融持ち株会社が良いと思います。金融機関は情報産業ですので、情報投資のためのある程度の資金量は必要になると思います。
C 現在の日本版金融ビッグバンは民と官バラバラで進んでいます。郵便貯金を資金調達、地域金融機関を資金運用にある程度特化させ、すなわち両者をいわばノンバンク化させ、地域の資金還流をはかることを提案します(因に、合衆国の郵便貯金法においては、貯金預入金総額の5%は準備金として国庫で保有され、30%は債券購入資金として政府によって使用され、65%は郵便貯金預入取扱局と同一地域に所在する民間銀行に再預入することになっていました)。

W 「6 つの改革」
 「ごあいさつ」の中で、芦尾長司会長・矢野恵一朗頭取は、「金融界は、2001年ビッグバンに向けて業界の再編成や他業種との提携など、予想を上回るスピードで変化しております。また、地域金融機関には、地域への特化はもちろんとして、経営の戦略性やいっそうの財務の健全性・サービス向上が求められています。」と述べておられます。
 金融再生委員会・金融監督庁は、2001年 3月までのペイオフ凍結の間に、経営不振銀行の破綻処理と公的資金注入による「自己資本比率 8 %以上の健全銀行」化を車の両輪として、地域金融機関(地銀・第二地銀)の再編を進めようとしています。地銀・第二地銀は、金融監督庁が自己資本比率の最低基準を4%とする早期是正措置を1999年4月に導入したばかりであることから「過去に例のない行政介入」と反発していますが、banking がリスク・ビジネスである以上、地銀・第二地銀が「自己資本比率 8 %」を達成するのは経営責任として判断されるべきものであると思います(因に、英国では、地域金融機関は特定の地域経済に依存せざるを得ないことからリスクが高いので、大手銀行より高い自己資本比率を要求されています)。
 わが国では、先進国の中で唯一、自己資本比率についてはダブル・スタンダードがとられ、みなと銀行のような国内業務だけを行っている銀行は4%が基準となり、平成11年 3月末時点の自己資本比率7.67%は 4 %を軽くクリアーしています。しかし、8 %未満であり、地域経済界からの出資で 8 %以上を、リスク・ビジネスを行っている責務から達成して欲しいと思います。
 また、「ごあいさつ」の中で、「このような大きな環境変化のなかで、当行ではスタートと同時に「6 つの改革」を柱とする中期経営計画「イノベーション21」を策定いたしました。」と述べておられます。「6 つの改革」とは次のものです。
@ 人の改革(行員の意識改革、新人事制度導入)
A システムの改革(情報系システムの早期開発、事務の簡素化、クイックレスポンス体制)
B 収益の改革(調達構造の改革、スリム化)
C 店舗の改革(店舗ネットワークの充実、各種チャネルの開発)
D 情報の改革(情報の蓄積と活用)
E リスク管理の改革(コンプライアンス体制の充実、各種リスクの統合管理)
 これらの 6 つの改革の中で、「人の改革」が中心に置かれています。みなと銀行という「組織」がうまく機能するためには、部・課・係間および行員間のコーディネーションと行員に対する動機づけが必要です。リストラを行うときは、コーディネーションと動機づけを考えなければなりません。ただし、みなと銀行の経営陣には、動機づけというよりも、同銀行の経営原理が「コミュニティー(地域との共存・共栄・共生)」であることを認識してもらい、兵庫県内最大のネットワークをもつ県民銀行としての役割を果たすという使命感をもって経営にあたってもらいたいと思います。

X みなと銀行と兵庫県民のくらし
 矢野恵一朗頭取は、「ニッキン」のインタビューの中で、みなと銀行は「天地人時」に恵まれて誕生したと話しておられます。「天」とは、兵庫銀行・みどり銀行の経営破綻による兵庫県下の金融システム不安を払拭するために「安心して預金ができ、必要に応じて借入ができる健全な本店銀行の誕生が望まれたこと」、「地」とは、「神戸で唯一の本店銀行として県民銀行をめざせること」、「人」とは、多くの人々に新生「みなと銀行」が成功するように協力してもらえること、「時」とは、「金融改革の流れがフォローの風になったこと」を意味しています。
 これまでのわが国は行政組織をはじめとした「組織」を中心にして運営され、組織が経済の諸問題を解決してきました。しかし、現状は、わが国経済を「市場」中心に運営し、経済の諸問題の解決を市場メカニズムに委ねるべきだという考えが支配的になりつつあります。組織中心の経済運営が機能障害に陥っていることは分かりますが、市場中心の経済運営がすべてを解決するという確たる保証もないように思います。市場中心のフリー、フェア、グローバルは大手金融機関の金融ビッグバンの原理であり、地域金融機関の経営原理は「組織」でもなく、「市場」でもなく、「コミュニティー」であるべきと思います。
 新生銀行は、「港のように人が集まり、情報が提供できる存在にしたい」ことから「みなと銀行」と名付けられたようですが、みなと銀行には「コミュニティーのつなぎ手」としての役割を期待したいと思います。矢野頭取は、「都市銀行の経営原理は「理」、みなと銀行の経営原理は「理」と「情」の組み合わせである。」と述べておられます。この「情」は「コミュニティー」の精神だと思います。
 日本版金融ビッグバンの名の下に、民・官の金融システム大改革が進行しています。金融ビッグバンのような構造改革は本来、短期的な景気循環対策ではなく、長期的視点に立った経済成長促進策と思われますが、これまでの長期不況下では、確たる見通しのないままに、金融ビッグバンが不況対策の 1 つとして理解されるようになっています。日本版金融ビッグバンは本来、長期的視点に立った構造改革であるべきであり、いま日本経済にどのような長期的変化が起こりつつあるのかを正しく理解し、そのような長期的変化に日本版金融ビッグバンが、どのように対応しようとしているのかを考える必要があります。
 阪神・淡路大震災は天災であり、たいへん不幸ではあったが、それは兵庫県経済の構造調整を早めたように思います。兵庫県の景況が全国比で悪いのは構造調整の進行がある程度関係しているように思いますが、景況を深刻化させているものは兵庫銀行・みどり銀行という地域金融機関の破綻だろうと思います。阪神・淡路大震災は経済インフラを破壊しましたが、兵庫銀行・みどり銀行の経営破綻は金融インフラを破壊させるものでした。地域金融機関は「コミュニティー」あるいは「情」の精神で育て、育てられるものだと思います。兵庫県民のみなさん「みなと銀行」を育て、「みなと銀行」に育てられましょう。