介護保険制度の現状と問題点
    
 −施設サービスを事例に−

 前号では在宅サービスについて取り上げた。今回は所謂「施設サービス」と称される介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健施設)、介護療養型医療施設(療養型病床群等)がどう変わったのか。これは、現在あるいは将来の介護の中心となりうるのか。また、それぞれの経営はどうか。利用者(患者)、経営側からみた制度上の問題点にはどのようなものがあるのかなどについて、現状の簡単な説明の後でふれてみよう。

1. 介護保険の施設サービスとは
 介護保険に係る「施設サービス」には@介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム(以下「特養」という))、A介護老人保健施設(老人保健施設(以下「老健」という))、B介護療養型医療施設(療養型病床群等)がある。
 まず特養は、常時介護が必要であり、在宅生活が困難である寝たきりの高齢者等を対象に入浴・排泄・食事などの介護、その他の日常生活上の世話、機能訓練、健康管理および療養上のサービスを行う施設である。介護保険制度導入前は、老人福祉による「措置」制度で行われていた。個人負担も収入に応じた負担であった。
 次に老健は、病状が安定期にあり、入院治療をする必要はないが、リハビリ、看護、介護を必要とする寝たきり高齢者等を対象に看護、医学的管理下での介護及び機能訓練、その他必要な医療、日常生活上のサービスを行う施設である。介護保険制度導入前は老人保険(医療保険)で行われていた。
 最後に介護療養型病床群等とは@療養型病床群、A老人性痴呆疾患病棟、B介護力強化病院(介護保険施行後3年間のみ介護保健施設とされ、その間に療養型病床群へ転換する)の3つからなり、@の療養型病床群の対象は長期療養を必要とする患者、Aの老人性痴呆疾患病棟の対象は精神症状及び行動異常が特に著しい慢性の痴呆性高齢者、Bの介護力強化病院の対象は主として老人慢性疾患患者である。いずれも入院者に対する療養上の管理、看護、医学的管理下での介護及びその他の世話、機能訓練その他必要な医療を行う施設である。介護保険制度導入前は老人保険(医療保険)で行われていた。

2.  介護保険制度の施設サービス基準
 施設サービスの3区分について1人当り室面積をみると、特養は室面積が広く、10.65u以上、次いで老健は8.0u以上、療養型病床群は6.4uとなっている。特養の方が広いスペースを要する。因みに一般の病院は4.3u以上。
 100床当りの職員の配置基準は、医療の要素の強い療養型病床群における100床当りの職員の配置基準についてみると、特養は医師1人、看護婦3人、介護職員22人、その他生活指導員の配置義務がある。老健は医師1人、看護婦8〜10人、介護職員20〜24人、相談指導員1人、その他栄養士、薬剤師などの配置が必要である。療養型病床群は、医師3人、看護婦17人、介護職員17人、その他薬剤師、診療放射線技師ほかの配置が義務付けられている。特養は介護人員に、療養型病床群は医療人員に重きを置いた配置基準である。因みに一般病院は医師6人、看護婦25人以上。
 なお、一般病棟では談話室、食堂、浴室の諸施設の設置義務がなかったが、療養型病床群ではそれらの諸施設の設置を義務付けられている。(表1)

  表1 施設基準の比較
  特   養 老   健 療養型病床群 (参考)一般の病院
一室当たり床数 4床室以下 4床室以下 4床室以下 規定なし
一人当たり室面積 10.65u以上 8.0u以上 6.4u以上 4.3u以上
廊下幅 片廊下 1.8m以上 1.8m以上 1.8m以上 1.2m以上
中廊下 2.7m以上 2.7m以上 2.7m以上 1.6m以上

必要な機能等

居室、医務室、機能訓練室、食堂、浴室等 居室、診療室、機能訓練室、食堂、談話室、浴室等 診療室、手術室、処置室、臨床、検査室、談話室、機能訓練室、食堂、浴室等 病室

   100床当たり
   職員の配置基準

医師1人
看護婦3人
介護職員22人
その他・生活指導員
医師1人
看護婦8〜10人
介護職員20〜24人
相談指導員1人
その他・栄養士、薬剤師ほか
医師3人
看護婦17人
介護職員17人
その他・薬剤師、診療放射線技師ほか
医師6人
看護婦25人

 以上から建物の投資(スペース)効率の面では特養が悪く、人件費面では療養型病床群が最もコストがかかる。老健はその中間に位置するといえる。また、都市型立地の病院(療養型病床群)と比較した場合、特養は郊外型立地が多いため、土地を含めた投資コストや設備投資コストは特養に対してむしろ病院の方が高いといえる。

3. 入所者からみた施設の比較
 入所者からみた3つの施設の違いを比較する。まず介護保険導入以前、特養は生活保護を要する者や、家庭の事情で入所を余儀なくされた者など、福祉施設としての要素が強かった。しかし、介護保険導入後、所得や本人を取り巻く環境よりも、日常的に介護を必要とする者のための施設へと変化している。ただし、措置制度で入所している者の退出については5年間の経過措置がある。政府は順次「高齢者福祉センター」を整備し、身寄りがなく、独居生活が困難な者を同センターに移す予定である。
 老健はリハビリ、監視、介護を要する者で、医学的な治療を必要とする者の施設であるが、介護保険導入後は、入所者からみた場合、特養と老健の間では施設やサービス面の差がなくなっている。
 療養型病床群は、脳や心臓の病気等で急性期を過ぎたものの長期入院が必要な人が入院しているケースが多い。病院内に設置されている長期入院が必要な高齢者用のベッド群である。通常、高齢者が急性の病気で入院し、慢性期に入った後、安定すると療養型病床群に移行する。

4. 各施設のサービス収入
 一定の人員配置を前提とした3つの施設の平均収入額は、特養が食費と1割負担込みで33.1万円(1割負担2.7万円、食費3.1万円。平均要介護度3.23(注))、老健35.4万円(1割負担3万円、食費2.8万円。平均要介護度2.85)、療養型病床群44.2万円(1割負担3.8万円、食費2.6万円。平均要介護度3.64)となっている(厚生省:保険医療福祉審議会資料、平成12年1月24日)。医療の必要性が高いほど、介護報酬は高くなっている。
 介護保険導入前と比較すると、平均的には被保険者の個人負担が増えるケースが多いが、これは特養が措置制度から契約に変わることにより補助金がなくなったこと、療養型病床群が従来の老人医療制度よりも報酬が若干高くなったことなどによる。ただし、利用者としては所得に関係なく入所できるようになった点が大きな違いである。
(注)平均要介護度とは、厚生省の同審議会が、施設ごとの入所者を介護度(要介護度1〜5の5段階)別に何人かを予測し、介護度に人数を乗じ、これを全入所者数で除した数。

5. 介護保険導入後の施設サービスの動向

@特養(特別養護老人ホーム)
 従来は「措置制度」で入所し、所得に応じて利用者が負担していたが、介護保険導入により、「契約」により入所、要介護度により介護報酬が国保連より支払われる。利用者は介護報酬料の1割と食事代を負担。
 会計制度も補助金会計から損益会計に変更されており、建物・設備等の減価償却費を計上する必要がある。自治体からの補助金は廃止、代わって特別加算金制度に変更。例えば重度痴呆性の人を受け入れると自治体から加算金が施設へ支払われる仕組みとなっている。

―ケーススタディ― 
 「おかの花」(氷上郡春日町:小椎尾隆施設長)は、昭和29年に当初黒井町立で設立された「丹波養老院三相園」(定員30名)を母体とし、昭和30年に町村合併により春日町立となった。同33年に定員50名となり、同47年には社会福祉法人に移管された。平成8年4月には特別養護老人ホーム「おかの花」におかの花デイサービスセンター、おかの花在宅介護支援センター、ケアハウス保月の郷が併設された。この施設は「その人なりの幸福」を考え、1人1人にその人の介護にとって重要な情報を記入した「介護計画書」を作成している。これにより、どの職員も対応可能な体制をとっている。また、毎年、桜祭りや盆踊りを開催し、家族を招く。今年は社会見学に淡路花博に行くなど、地域社会との繋がりを重視している。この地域では、介護保険導入後、デイサービスの利用が増えてきている。
 「園田苑」(尼崎市:中村大蔵施設長)は、昭和63年に設立された社会福祉法人である。50床、ショートスティ4床。「地域一体型」の特養を目指している。介護職員と高齢者の関わりだけでなく、高齢者どうしの協働的関わり、さらには高齢者と地域住民との関わりの上に介護は成り立つという考えに立っている。介護保険導入後、介護保険の報酬対象にならないサービス、例えば、地域の盆踊りに連れて行くサービスなどがあるが、個人個人の生活の潤いになるものなら積極的に実施するとしている。「措置」から「契約」へと変ったものの、基本的には措置時代と変わらないサービスを行いたい。人間の晩年ぐらい精神面も含めた情のあるサービスを提供したいとしている。ほかに同社会福祉法人は兵庫県と尼崎市が災害復興基金から1億1千万円を投じて建設した「尼崎グループハウス」(高齢者の共同生活施設)の運営委託を受けている。
 「鹿児の郷」(加古川市平荘町:瀧淑郎施設長)は、平成10年に開園された。ショートステイ20床のほか、介護保険の利かないケアハウス13室(うち夫婦用2室)を併せ持つ。ここには加古川市の委託を受けて在宅介護支援センターもある。従来、利用者が行政に頼んで入れてもらっていたが、介護制度導入により利用者の裾野は広がった。しかし、介護職員の配置基準が従来は入所者1人に対し4.1人だったものが、これが3人になり、報酬請求事務なども煩雑となり、ますます労働集約的になった。今までの補助金がなくなり経営的には難しい時代となった。介護保険制度の問題点として、成年後見制度などが熟する前に制度がスタートしてしまった感が否めないという。当施設では、他の施設が通常午前中に入浴時間をとっているところを希望者の多い午後にする、園児訪問など入所者と外部の人とのふれあいの機会を増やすなど、入所者に対するサービス向上に努めている。

A老健(老人保健施設)
 老健は、概ね100床の施設が多いが、兵庫県下でも35床から200床を超えるものもある。介護保険導入後の老健の報酬額は、導入前の老人保険報酬額とほとんど変わらないが、導入前はおむつ代などの費用が自己負担であったものが、導入後は報酬額に含まれるようになり、若干収入面で厳しくなった。また、100床を下回る施設の経営は投資効率が悪く、人件費比率も高くなり、採算面で厳しい。
 介護保険の導入により、措置から契約に変わった特養と老健との違いがなくなった。そのため、特養などの施設の多い地域ほど競合するようになってきている。ある施設では、現状、他地域からの入所もあるので今のところ稼働率は高いが、今後、他地域での立地が進むと経営の先行きは不透明になる。95%ぐらいの稼働率がないと採算に合わないとしている。
 兵庫県下では神戸・阪神間など都市部における大型老人保健施設は投資効率の面から採算に合いにくいため、建設例は少ないが、加古川、明石など中規模の都市には200床ぐらいの施設がある。逆に過疎地では対象人口が少ないため、皆無か50床程度の施設が多いのが特徴である。
 ある老健施設では、サービス内容が特養に比べてリハビリのウエイトが高いところに特徴がある。現状、被保険者から老健は依然として医療施設と思われており、また、実際に病院と併設型になった老健が多い。運営面で高齢者の病気は表に現れにくく早期発見が困難なため、週2回の診察に重きを置いている。特に留意している点は、高齢者の転倒による「骨折」である。骨折は寝たきりにつながることが多いという。

B療養型病床群
 現在、病院には介護力強化病院(病棟)の制度が残っており、これは平成15年4月までに療養型病床群に移行することとなっている。介護力強化病院は主として慢性的な病気の高齢者が対象で病室面積は一般病棟と同じ1床当り4.3u以上で人員は100床当り医師3人、看護婦17人、看護補助者17人であるが、療養型病床群になると、病室は4床以下、1床当り6.4u以上となり、病室のほか、機能訓練室、談話室、食堂、浴室の設置が義務付けられている。このため、同じ病床数を維持する場合、増改築が必要となってくる。
 高齢者人口の多い地域や、元々慢性期医療のウエイトの高い病院は療養型病床群の指定を受けて、何床かを療養型に移行する例がある。また、施設サービスの少ない地域では200床規模の療養型病床群専用の病院にする例もある。
 今まで、高齢者の急性期疾患が慢性化し、入院期間が6ヶ月を超すと保険報酬が大幅に低下するため、別の病院に入院させられる所謂「たらい回し」がみられた。このことが高齢者の医療費の高騰を招いたことも否めない事実である。療養型病床群は施設スペースやケアに重きを置くもので、長期化が予想される高齢者の入院に備えるものである。本年4月1日現在で、兵庫県は目標病床数4,977床に対し、指定病床数は4,776床、達成率は96%と高い。因みに全国の達成率は65.6%となっている。

6. 自治体による保険・医療・福祉サービス
 (淡路島・五色町を例に)
 兵庫県下では自治体自らが、施設サービスに取り組む例が多い。特に淡路島中央南西部に位置する五色町は昭和55年に「健康の町」を宣言し、積極的に保健・医療・福祉に取り組んでいる。人口1万1千人余の農漁村で、若者の都市部への流出に伴い、宅地分譲を進め、人口誘致に努めている。しかし、65歳以上人口が25%を超え、要介護老人へのケアの強化が当面の課題である。
 昭和57年に五色町健康村第一期工事(健康道場、保健センター、五色診療所の開設)が竣工し、平成3年に特別養護老人ホーム「五色・サルビアホール」(50床、ショートステイ20床)、デイサービスセンター、介護支援センター、サルビア訪問看護ステーション、社会福祉協議会などの機能を統合した「健康福祉総合センター」が開設された。
 町が特に力を入れているのは健康福祉分野に情報技術を取り入れている点である。例えば、国のモデル事業として開発したICカードは、五色町の医療機関と県立淡路病院(洲本市)で利用することができる。これにより病歴、投薬歴などが分かり、薬の重複防止にも役立っている。また町営のCATVを使った「在宅保健福祉支援システム」では、患者・家族が相談したい時にリアルタイムで主治医・看護婦に相談できるよう据え置き型端末や携帯型端末を配置し、在宅患者・家族の支援を行っている。
 また、地域住民の健康に対する意識も高揚しており、健康に関する学習会やボランティア活動も盛んである。
 介護保険導入後、施設サービスの中心は特養のサルビアホール、在宅サービスの中心は町であるが、一部JAも提供している。社会福祉協議会は通所サービスを行っている。今のところ、料金負担面やサービス面での不平不満は出ていない。

7. 施設サービスの問題点
 第1は経営面の問題点である。
 まず、特養の経営問題である。これまでは措置制度により、行政からの補助金により経営が成り立っていた。しかも、土地は自治体からの無償提供や個人からの寄付などによっていた。しかし、今後は契約制度の中で、より効率を重んじる経営にならざるを得ない。現状では良質のサービスを提供している特養は待ち状態のところが多く、介護保険導入後でも立派に経営が成り立つ可能性が高い。むしろ、保険導入前から粗悪なサービスであったところや、新規に開設する施設経営が難しい。
 特養は、病院入院のために退所した場合でも、3ヶ月間は再び戻ってきたときに備えベッドを確保しておく義務があった。その代わりに3ヶ月分の入所費用を自治体が支払ってくれた。介護保険導入後も退所後3ヶ月間のベット確保義務はあるが、報酬は通常6日間のみになったため、これが実質的な稼働率の引き下げにつながるという指摘が多い。
 次に老健の経営である。これは、上述のように特養との区別が薄れつつある。今以上に医学的見地に立つリハビリやケア機能の向上、緊急病院との連携が求められる。立地的には都市部から都市近郊域が増大しよう。
 療養型病床群については、兵庫県の整備状況は進んでいる。ただし、病院が次第に、急性期病院と慢性期病院、さらには療養型病床群を併設した病院と差別化されてくる中で、療養型病床群でも医者の技術力、看護・介護力などにより、患者が病院を選別する時代となってこよう。
 経営的にみれば、現在の医療・介護行政は、財政的に厳しい中で、各自治体の地域保険計画に則り、施設の新設が進む。しかし、2007年には人口は減少に転じ、2025年頃からは高齢者人口の増加にも歯止めがかかる見通しで、これを睨んだ計画的な施設の建設が望まれる。
 第2の問題は、効率と福祉の双方を兼ね備えた運営を行えるかである。財源的に限られた中で、サービスを提供するには、「マニュアル化」したサービスになりがちであるが、単純にマニュアル化されたサービスを施設入所者は求めていない。むしろ、精神的情緒的なものを求めている。看護・介護のサービスの質・入所者のQOL(Quality of Life:生活の質)を高めることが肝要である。各個人にとって最も注意しなければならない情報を記入した「介護計画書」を作成している施設を好事例として紹介した。
 第3に、施設サービスを地域に根付かせることである。入所者は地域の人とのふれあいを求めていることを事例で挙げた。これは地域に住む人の地域活動を育てるという側面もある。今後、地域密着型のサービスを展開することは、社会的見地からも望ましいと思われる。
 第4に、施設待機者が増えており、待機者に納得のいく透明性の高い方法で入所の順位がつけられる必要がある。ある施設では、外部からも委員として人を招き、入所検討委員会による審査を経て決めている。
 第5に、地方分権化に伴う市町村合併はもはや押し止めようのない動きで進んでいる。広域行政による効率化は望ましいことだが、医療・福祉の分野は非常に地域密着型でかつ労働集約的でもある。しかし、五色町で挙げたようなICカードによる医療情報の共有などは広域で取り組むほど上手くいく例もある。医療・福祉の分野での取捨選択を十分検討してほしい。
 第6に予防の重要性である。在宅サービスを受けている中でデイサービスによりリハビリを受ける人が多い。やはり、施設入所の前にリハビリに励むことや健康に関する正しい知識を身に付けることが肝要である。特に「生活習慣病」など普段からの食事や運動に若いときから心がけることが何よりも大切である。

おわりに
 取材に当り、「身内の方で一度もお見舞いにこない人が増えた。」という話が多々あった。これには物理的に見舞いに行けないなど、現代社会において介護保険の導入の必要性を象徴するものもあろう。しかし、一方で、介護の原点である“家族が身内を思いやる気持ち”が希薄化していることを痛切に感じた。21世紀に向け、この介護保険制度が改めて介護の真の意味を問い直す契機となり、さらに介護保険制度が練り上げられることを期待する。

(水上 潤)