神戸医療産業都市構想
−医療関連産業の振興を目指して−
神戸市企画調整局調査室主幹
三 木 孝
1.はじめに
阪神・淡路大震災から6年あまりが経過したが、神戸の経済状況は、全国的な景気低迷とも相まって、依然として震災前の概ね8割程度の水準で推移しており、神戸経済の本格復興と活性化が市政の最重要課題の1つとなっている。
2.構想の概要
このような中、今後特段の成長が期待されている医療関連産業の集積を図ることが、神戸経済の復興・活性化と21世紀の新しい街づくりに不可欠と考え、現在、神戸市では「神戸医療産業都市構想」を推進している。
本構想は、平成17年度に開港する神戸空港も活用して、ポートアイランド2期を中心に高度医療技術の研究開発拠点を整備し、国内外の医療関連産業の集積と新産業の創出を図るとともに、高度な医療サービスの提供による市民福祉の向上、さらにはアジア諸国の医療技術の向上など国際社会への貢献にも資するプロジェクトである。
<懇談会報告書>
構想の基本的な枠組みについては、市立中央市民病院の井村名誉院長(総合科学技術会議議員)や京阪神の医学界の先生方に参画いただいた「神戸医療産業都市構想懇談会」(平成10年10月設置)で、幅広い観点から意見をいただき、平成11年3月に報告書が提出された。
報告書では、構想の中核施設として、@研究開発機能と臨床研究支援機能を有する「先端医療センター」、A各種のビジネス支援機能等からなる「メディカルビジネスサポートセンター」、B人材育成支援機能を担う「トレーニングセンター」の3施設を早期に整備すべきとの提言がなされ、その中でも特に核となる先端医療センターで取り組むべきテーマは、@臨床研究支援(治験)、A細胞・遺伝子治療、B福祉・介護機器も含めた医療機器等の研究開発の3分野となっている。
<研究会の設置>
構想推進にあたっては、産学官の密接な連携が不可欠である。そこで、平成11年8月に国内外の医療関連や地元も含めた企業(当時約200社、現在約
360社)、京阪神の大学・研究機関、さらに国の関係省庁にも参画をいただいた「神戸医療産業都市構想研究会」を設置した。また、研究会の中に、@映像医学センターワーキング(医療機器の研究開発)A臨床研究支援センターワーキング(地域の医療機関と連携した治験体制等)B都市インフラ整備ワーキング(企業誘致・都市開発)C再生医学ワーキング(再生医療等の臨床応用)を組成し、早期具体化に向けた検討を進めている。
3.中核施設の整備
<先端医療センター>
中核施設の中でも特に核となる「先端医療センター」は、市立中央市民病院、国の「発生・再生科学総合研究センター」、国内外の大学・研究機関及び医療関連企業、さらに地域の医療機関等と連携を図り、基礎研究から医療の実用化への橋渡しとなる「トランスレーショナルリサーチ(Translational
Research)」(臨床研究)を行なう研究機関である。
同センターの整備に関しては、経済産業省の新事業創出促進法に基づく新事業支援施設として、国、市、民間企業からの出資を得て、ポートアイランド2期において、「神戸都市振興サービス梶vが整備を行い、昨年7月に着工しており、平成14年度には全施設が完成し「(財)先端医療振興財団」が運営を行なう予定である。前頁の図のように、最先端の医療機器、研究ラボ、60床の病床、外来治験スペースのほか、ヒト細胞・組織培養の研究・治験から生産までを一貫して行う施設としては国内初の「細胞培養センター」も整備される。
<発生・再生科学総合研究センター>
国の研究機関の誘致は、構想推進の大きな原動力となるため、文部科学省の特殊法人である理化学研究所が整備・運営する「発生・再生科学総合研究センター」を神戸に誘致した(平成12年2月に正式決定)。
同センターは、再生医療への基盤開発などの総合的・世界的な研究を行なう機関である。昨年9月に1期工事として第2研究棟が着工して以来整備が進んでおり、平成14年度に全施設が完成する予定である。
<神戸国際ビジネスセンター>
神戸市の外郭団体である(財)神戸都市整備公社が先端医療センター南側に、外国・外資系企業に対して、低廉で利便性の高い事務所、工場スペースや研究開発用のラボ等を賃貸する「神戸国際ビジネスセンター」を整備している。1期棟が本年7月に供用開始され、引き続き2期棟を建設する予定である。
<その他の中核施設>
報告書で提案のあった「トレーニングセンター」の具体化に際しては、市単独で取り組んでいくのではなく、センター運営等のノウハウを持つ有力な企業や大学との連携が不可欠である。医療機器メーカーのGE横河メディカルシステム社や世界的な治験支援会社であるクインタイルズ社などの協力を得て、具体化の検討を進めている。
また、「メディカルビジネスサポートセンター」については、当面は神戸国際ビジネスセンターを活用しながら、その具体化を検討する。
4.先端医療センターでの研究テーマと
先端医療振興財団の取り組み
先端医療センターの運営主体として、神戸市、兵庫県及び民間企業からの出捐により平成12年3月に「先端医療振興財団」を設立し、報告書の提案を基に以下の三分野で具体的な活動を展開している。
(1)医薬品等の臨床研究支援
治験(臨床試験)は、新薬の人体への安全性や有効性を確認するために必要不可欠なものであるが、新GCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)の施行(H10.4)以降、現場での対応の遅れなどにより国内での治験が停滞している。
先端医療センターでは、治験を円滑に推進するために、専門スタッフである治験コーディネーターの教育・研修や派遣、治験の啓発事業、治験データ−の収集・管理も含めて多方面から臨床研究を支援していく。
平成14年度の先端医療センター開設に向けて、昨年10月には、先端医療振興財団がモデル的に外来治験専門の診療所を設け、治験を実施している。また、生活習慣病などを対象に地域医療機関と連携した「地域協同型治験」の実施に向けて地元医師会と協議を進めている。
(2)医療機器の研究・開発
先端医療センターでは、医療機器(福祉・介護機器を含む)や医療機器を活用した新しい治療技術の研究開発、評価・普及を目指す。
昨年3月に経済産業省(新エネルギー・産業技術総合開発機構:NEDO)から「医学・工学連携型研究事業」を受託し、悪性腫瘍や脳血管障害の早期診断技術と体機能を温存した治療システム開発の基盤研究を実施しており、日立製作所、GE横河メディカルシステム、シーメンス旭メディテックといった日米欧の代表的な企業が参画している。
また、がんやアルツハイマー症の早期診断に有効なPET(ポジトロン断層撮影法)を用いた診断サービスや、CTとライナック(X線・電子線を用いた高エネルギー放射線治療装置)を組み合わせたCT−ライナックによる、がんなどの治療も行なう予定である。
地元企業の取り組みとしては、神戸市機械金属工業会が、平成11年11月に「医療用機器開発研究会」を発足させ、医療機器の開発動向などの調査研究、手術器具の開発、PETの付帯機器の試作など、医療関連分野への進出に精力的に取り組んでいる。
(3)再生医療等の臨床応用
再生医療とは、自らの細胞や組織を増殖させ、組織や臓器を再生・復元し患部の機能を回復させるもので、21世紀の夢の医療と言われている。
先端医療センターでは、この再生医療の臨床応用に取り組んでいく。既に文部科学省(科学技術振興事業団)の「地域結集型共同研究事業」を受託し、産学官の研究者による世界的レベルの共同研究と産業化に向けた取り組みを開始している。
今後、「細胞培養センター」も活用し、「発生・再生科学総合研究センター」、尼崎で整備中の産業技術総合研究所のティッシュ・エンジニアリングセンター等々との密接な連携のもとに、再生医療等の実用化とバイオベンチャーなど再生医療関連の企業集積を図り、神戸が再生医療関連の世界的な拠点となることを目指していく。
5.企業の誘致
神戸の地に医療関連企業のクラスターを形成するために、積極的に企業誘致に取り組むとともに、神戸への企業進出を促す仕組みも整えている。
<各種支援策>
まず第1に、ポートアイランド2期地区を「神戸起業ゾーン」に指定し、地方税の減免や賃借料補助などの優遇措置を設けている。
また、昨年9月に先端医療振興財団に20億円の「研究開発支援基金」を創設し、同基金で民間企業との共同研究の支援、共同研究企業への融資などを実施する。
さらに本年1月には、先端医療振興財団と地元金融機関が共同で「神戸バイオメディカルファンド」を創設し、神戸へ進出するバイオベンチャー等への資金面での支援も実施していく予定である。
<企業誘致>
外国・外資系企業の誘致にあたっては、平成11年7月の「世界都市会議」(世界銀行主催)を始めとして、アメリカでの本構想と神戸の投資環境を紹介するプレゼンテーションセミナーを開催しており、多くの海外企業や大学が神戸のプロジェクトに関心を示している。こういった積極的な企業誘致により、神戸への進出企業が確実に増えている。
また、アメリカではサンフランシスコやボストン周辺のように各都市で大学や研究機関、病院などを中核に医療機器や医薬品、バイオ関連の企業が集積する「クラスター」が形成されている。平成11年度にアメリカの会社に委託して実施した「神戸医療産業集積調査」では、アメリカでの事例を参考に、20年後の神戸への進出企業が115社、雇用者が18,000人、生産額は3,300億円と推計している。現在既に5社が進出又は進出決定済みで、その他20〜30社と協議を進めており、さらなる企業の集積に向けて努力をしているところである。
<むすび>
神戸市では、先端医療センターを始めとした中核施設を核に、神戸空港も最大限に活用して、ポートアイランド2期を中心に医療関連産業の集積を図り、新産業の創出と既存産業の高度化、雇用の場の確保による神戸経済の再生と21世紀の新たな都市の創造を進めている。