<調査>
少子高齢化と人口減少問題


1.日本は予想よりも早く人口減少社会に突入
 2005年の国勢調査によると、2005年10月 1 日現在の日本の総人口は 1 億2776万人で、1 年前の推計人口(遡及補正後)より約 2 万人減少した。
 人口の変動は、自然増減(出生者数−死亡者数)と社会増減(入国者数−出国者数)により生ずる。厚生労働省が発表した2005年人口動態統計(速報)では、2005年の出生者数は 5 年連続減少の109万237人、死亡者数は 5 年連続増加の109万4598人で、ついに、差し引き4361人の自然減少となった。一方、社会増減については、2003年は+6 万 8 千人、2004年は▲ 3 万 5 千人というように、経済や国際情勢などの要因により不規則に増減しており、特に方向性はない。しかし、自然減少が今後とも続くことは避けられず、日本は人口減少社会に突入したとみられる。国立社会保障・人口問題研究所の推計(2002年 1 月の中位推計。以下、人口予想はこの推計を利用)によると、日本の総人口は2006年にピークを打ち、2007年から減少に転じるとされていたが、これよりも 2 年早い。

2.過去の人口推移と今後の予想
 日本の総人口は、初めて国勢調査が実施された1920年には5596万人であった〔図表1〕。その後、戦争による減少があった1945年を除いては、一貫して増加してきた。
 1945年に7200万人であった総人口は、第 1 次ベビーブーム(団塊の世代が誕生)の1948年に8000万人を超えた(8000万 2 千人)。 8 年後の1956年に9000万人を超えたあと(9026万人)、11年かかって1967年に初めて 1 億人を突破する( 1 億24万人)。そして、第 2 次ベビーブーム(団塊ジュニアが誕生)を経た 7 年後の1974年に 1 億1000万人を超え(1 億1005万人)、その10年後の1984年に 1 億2000万人を超えた( 1 億2024万人)。その後の20年間は、前年比増加率が年々縮小しながらも総人口の増加は続き、2004年には 1 億2778万人に達していた。ところが2005年の国勢調査で、これより約 2 万人減少したことが明らかになった。総人口の減少ばかりに目を奪われているが、年少人口( 0 〜14歳)と生産年齢人口(15〜64歳)は、それぞれすでに1979年と1996年以降に減少に転じていた。
 そして、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の総人口は今後一貫して減少し、2027年には 1 億2000万人を割り込み( 1 億1977万人)、2050年には 1 億59万人と、約40年前の1967年レベルになってしまう。本推計では、合計特殊出生率が2007年に1.31で底を打ち、2050年までに1.39と緩やかに回復するとしているが、2004年の合計特殊出生率は1.29であり、すでに本推計の前提を下回っている。しかも、人口は予想より 2 年も早く減少に転じた。そういう意味では、この推計はかなり楽観的な数字であるといえよう。

3.人口減少の原因は少子化である
 人間には寿命があるので、一定水準以上の子供を産み、子孫を残さない限り人口は減少する。人口を一定に保つために必要な出生率を人口置換水準という。この人口置換水準は、死亡率の高低によって変化するが、日本の場合、長寿国であることを反映してその水準は低く、2003年では2.07である〔図表2〕。
 合計特殊出生率がこの人口置換水準を下回る状況が続けば、やがて人口は減少することになる。日本では、1950年代後半から1970年代前半にかけて、合計特殊出生率がこの人口置換水準を一時的に下回った後、両指数がほぼ同じ水準で推移していた。しかし、1974年以降、合計特殊出生率はほぼ一貫して低下を続け、人口置換水準を下回って推移している。そして、2004年には1.29と、先進国の中でも極めて低い水準となった。それにもかかわらず、これまで人口が減少しなかったのは、人口モメンタム(年齢構造が人口の増減に及ぼす影響)が働いていたからである。この“のりしろ部分”を使い果たし、ついに減少に転じたのである。つまり、1974年以降30年以上も続いた少子化が人口減少の根本要因である。
 人口を維持するためには、合計特殊出生率を人口置換水準まで高めなければならないが、これは容易なことではない。たとえ合計特殊出生率を人口置換水準まで高めることができたとしても、今度は逆の人口モメンタムが働くため、減少から横ばいもしくは増加に転じるまでには、また数十年を要することになるのである。

4.高齢化が人口減少を加速する
 年少人口( 0 〜14歳)、生産年齢人口(15〜64歳)、老年人口(65歳以上)という年齢層別割合の変化を伴わずに人口が減少するのであれば、今の社会が単純に縮小していく姿が想定される。しかし、実際は少子化と高齢化が同時に進行する。しかも、65歳以上の高齢者が急速に増加することに大きな問題がある。
 〔図表1〕より明らかなように、今後、少子・高齢化はますます伸展する。1920年の年少人口割合は36.5%と、3 人に 1 人は15歳未満の子供であった。それが2000年には14.6%となった。そして、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2050年には10.8%になる。一方、1920年の老年人口割合は5.3%であったものが、2000年には17.3%になり、2050年には35.7%となる。40数年後には、3 人に 1 人以上が65歳以上の高齢者という世界でも類をみない高齢化社会になる。
 高齢化が伸展する要因のひとつとして、平均寿命の飛躍的な向上をあげることができる。しかし、日本はすでに世界一の長寿国であり、もはやこの要因だけでは、高齢化の今後の急速な進展を説明することはできない。日本が今後も急速に高齢化が進むのは、その特殊な人口構造にある。
 つまり、1947年〜49年生まれの団塊の世代の存在である。彼らが65歳以上となる2010年〜15年にかけて、老年人口は急増する。その後、老年人口の増加ペースは衰えるが、1971年〜74年生まれの団塊ジュニアが65歳以上となる2035年〜40年にかけて、老年人口増加のもう一つの山が来る。
 人間には寿命があり高齢者が増加すると、死亡者数も増加する。死亡者数の増加は、団塊の世代が死亡年齢に達する2035年ころまで続き、その後、死亡者数は高水準のままほぼ横ばいで推移する。この結果、人口減少テンポの加速化が始まる。その後、死亡者数が減少に転じるのは、団塊ジュニアが死亡年齢に達した後の2060年以降であり、これ以降は、総人口の減少テンポが緩やかになると予想されている。

5.高齢者は都市圏で急増する
 高齢化問題を考える時、65歳以上の高齢者が総人口に占める割合(老年人口割合)の高低を基準に議論されることが多い。働き手が都会へ出たために過疎化が進み、高齢者だけが残された地方の問題であるというような見方である。地方におけるこのような高齢化は、確かに大きな問題である。しかし、高齢化の問題は、今後は地方だけの問題ではない。
 実数の増加で高齢化を捉えると、都市圏の増加テンポは驚くほど速いのである。2000年から2030年までの30年間における高齢者の人口増加は、地方圏では1.4倍であるのに対し、都市圏では1.7倍と高い〔図表3〕。都市圏の中でも埼玉県の2.2倍、千葉県の2.1倍、神奈川県の2.0倍など東京近郊では 2 倍に達する県もある。特に、2000年から2015年の増加テンポは速く、都市圏の高齢者人口は1.6倍になると予想されている。高度成長期に都市圏に大量流入した、団塊の世代を中心とした年齢層が一気に高齢者の仲間入りをすることがその主因である。
 さらに、2030年までの高齢者の増加テンポを市町別にみると、都市圏には驚くほど増加テンポの速い市町がある。千葉県浦安市の3.7倍、白井市の3.6倍、印西市の3.4倍など3倍を超える都市があるのをはじめ、神奈川県相模原市の2.7倍、海老名市の2.6倍、座間市の2.6倍、埼玉県大井町(現ふじみ市)の3.1倍、春日部市(合併前の旧春日部市)の2.7倍、越谷市の2.6倍などである。これらはいずれも東京や横浜といった首都圏のベッドタウンとして、高度成長期を中心に人口が急増した市町である。兵庫県内でも三田市の3.4倍、猪名川町の3.0倍など、大阪や神戸のベッドタウンとして人口が急増した市町で、高齢者の増加テンポが速い。今後は、市街地やその周辺の住宅地で高齢者が短期間で急増し、高齢者が高密度に居住する新しい形態の社会が出現する。かつてはニュータウンと呼ばれた街が、住民の高齢化によりオールドタウンともいうべき街へと変化してしまうのである。
 これら市町の2000年時点の老年人口割合は、猪名川町の14.9%を除き、他は10%程度と低く(全国平均は17.3%)、高齢化とは余り縁がない街と思われていた。予想では、2030年時点でのこれらの市町の老年人口割合は、白井市の33.0%、猪名川町の32.3%、印西市の29.9%が全国平均の29.6%をわずかながら上回るが、それ以外の市町では、全国平均を上回って上昇することはない。なぜなら、これらの市町では、もともと老年人口割合は低い上、分母となる2030年時点の総人口は全国的には7.4%の減少予想である中、増加予想となっており、分子である高齢者の増加を相殺してしまうからである。
 しかし、高齢者の実数の増加が大きいということは、介護や医療に関する財政支出など、費用面での負担が急増することを意味する。今後、高齢化の問題を考えるときは、老年人口割合の大きさだけでなく、高齢者の実数の急激な増加にも目を向けなければならない。高齢化は地方の過疎地域だけの問題ではないということである。

6.少子高齢化と人口減少がもたらす問題
(1)拡大経済から縮小経済への転換
 GDP(国内総生産)の大きさは、労働者数と労働生産性によって決まる。今後、生産年齢人口は減少の一途をたどり、労働者数の減少は避けられない。しかし、労働者数の減少は、労働生産性の向上によってカバーできるから、GDPが減少に転じることを余り心配することはないという意見もある。果たしてそうであろうか。
 人口減少下における日本の経済成長率を予想したものに〔松谷明彦、2004年(注1)〕がある。ここでは、GDPの代わりに国民所得を、また、労働者数の指標として女性や高齢者の雇用増や労働時間の短縮などを加味した労働力を用いて推計している。ちなみに2030年の日本の労働力は、2000年比33.9%減少するという。そして、仮定としてはやや高めの数字であるとしながらも、1980年から2000年までの技術進歩率が今後30年間続くとして推計している。それによると、2000年には370.3兆円だった日本の国民所得は、2008年には390.7兆円(2000年比+5.5%)まで増加するものの、2030年には314.6兆円まで縮小する(同比▲15.0%)。経済成長率でみれば、2010年に▲0.2%、2020年に▲1.1%、2030年に▲1.7%とマイナス幅が拡大するという。つまり、日本は、人口減少の影響を労働生産性の向上によりカバーすることはできず、拡大経済から縮小経済へと転換するのである。

(2)企業は付加価値重視の経営を求められる
 国民所得の減少は、個人消費や設備投資に向かう資金が減少することを意味する。つまり、ものに対する需要が減少する。企業にとっては、以前と同量のものが売れなくなり、需要を上回る生産能力を維持することは、業績悪化につながる。拡大経済のもとでは、過剰な設備投資により一時的に業績が悪化したとしても、需要の拡大により過剰分は解消されてきた。しかし、縮小経済下では需要の増加による過剰分の解消は期待できない。企業の過剰な設備の存在は、収益を圧迫するだけであり、過剰設備を廃棄し、生産能力を需要に見合うレベルまで低下させるという対応を迫られることになる。
 一方、賃金抑制によって利益を確保しようとすると、これはかえってマイナスに働く。賃金を抑制すれば個人消費が縮小し、ものに対する需要を一段と減少させ、新たな過剰能力が生じる。そして、これを解消するために賃金を抑制し、需要をさらに減少させるという負のスパイラルが働くことになってしまうからである。
 それでは、労働力が減少し、国内需要も減退していく中で、企業が適正な利益をあげていくためにどうすべきか。この点について『平成17年度版経済財政白書』では、労働力の減少に対しては技術革新による生産性の向上を図ること、国内需要の減退に対しては付加価値の高い技術創造により競争力を高めていくことが必要であると指摘している。国内だけにとどまらず、国際競争力をつけ海外市場の開拓に取組むことも必要であろう。同白書では、競争力の源泉はイノベーション(注2)にあり、イノベーションを通じた生産性向上の必要性も指摘している。しかし、1990年代以降、日本では研究開発投資の規模に見合う生産性の伸びはみられず、むしろ、悪化傾向にあるという。そして、今後、イノベーションを通じて生産性を向上させるためには、何よりも研究・技術部門の人材の確保が欠かせないと指摘する。しかし、少子化により、若手人材の急激な減少が予想され、人材確保が困難であることは間違いない。

(3)現行の公的年金制度は維持できない
 現行の公的年金制度は、現役層が高齢者層を養うという賦課方式をとっているため、少子高齢化が伸展すると維持できなくなる。2004年の制度改正前の〔松谷明彦、2004年(注1)〕の試算によると、個人所得に対する負担率を現行の水準のままに据え置いた場合、保険の赤字額は年々増大し、2030年の累積赤字額は1240兆円にも達する。しかも、2030年における支出に対する収入の比率は44.0%と半分にも満たない。一方、給付水準を現行のままに据え置くと、個人所得に対する負担率は、1998年の15.0%が2030年には34.0%と倍以上になるという。
 政府としても、年金制度が立ち行かなくなることは十分承知しており、2004年の改正では大幅な変更が盛り込まれた。その主なものは、@保険料率の上限を設定したことと、A年金給付水準を保険料などの収入の範囲内に収まるように調整する「マクロ経済スライド」という仕組みを導入したことである。この調整は、年金の減額給付を意味し、厳格に運用されれば、理論的には収支は一致し、年金財政が破綻することはない。しかし、給付水準の下限を設定しており、給付水準がこの下限を下回るような場合には、制度を見直すとしている。つまり、保険料などの収入が将来的に不足することを前提とした改正になっているわけである。

(4)老人医療費の増大も将来の負担を増加する
 高齢者の増加による老人医療費の増大も問題である。日本の医療保険制度は、個人が保険料を負担したあと、不足する部分は税で補充するという構造となっている。疾病リスクは、加齢によって高まるのが普通であり、高齢者は自ら支払う負担を大きく上回る給付を受けることになる。つまり、高齢者層の高い医療費は、現役層が負担するという構図であり、賦課方式の公的年金と同じ問題が発生する。
 『平成17年度版経済財政白書』に将来の医療費に関する試算がある〔図表4〕。人口要因(ベンチマーク・ケース)と 1 人当り医療費の伸びを足した全体の数字をみると、団塊の世代が65歳を超える2015年には現在の1.3倍、また、75歳の後期高齢期を迎える2025年に1.5倍以上になると予想されている。医療費の増大の大半は、1 人当りの医療費が伸びることによるものである。しかし、これを年齢グループ別にみると、65歳以上の高齢者の寄与度が極めて高い〔図表5〕。



(5)世代の違いによる受け払いの差は大きい
 年金や医療といった社会保障が現役層の負担で維持されているところから、世代間の不公平に関する議論もよく耳にする。『平成17年度版経済財政白書』には、この点についての試算もなされている〔図表6〕。生涯にわたる社会保障給付や行政サービスといった政府部門からの受益総額と、税や社会保障負担等の政府部門への負担総額の生まれ年別の試算である。それによると、現行の制度が維持され、医療費が経済成長率と同程度で増加する場合で、生涯でみて受取超となるのは、60歳以上(1943年以前生まれ)の 1 世帯当り4875万円と、50歳代(1944〜53年生まれ)の1598万円だけで、その他の現役世代はすべて負担超である。しかも、将来世代(1984〜2003年生まれと2004年以降生まれてくる世代)にいたっては、4585万円の負担超となる。これは、現行の社会保障制度を維持すると、保険料率の引上げや税金の投入という形で、現役世代ならびに将来世代に多大な負担を強いることを意味している。

(6)高齢化に伴い介護保険給付も増加する
 2000年にスタートした介護保険制度は、導入後 5 年足らずであるが、早くも財源不足が懸念されている。2000年度と2004年度を比べると、保険給付費は3.2兆円から5.5兆円へと1.7倍に増加しており、65歳以上の認定者数も、247万人から394万人へと1.6倍に増加している〔図表7〕。その増加率の内訳をみると、要介護度が「高い人」よりも「低い人」、また、「施設介護」よりも「居宅介護」を受ける人の方が大きい。このように要介護度が低い人や居宅介護を受ける人が急増することは、当初からある程度予想されたことであった。なぜなら、今まで家族の世話になっていた比較的要介護度が低い高齢者が、新たに介護認定を受け、在宅介護を受ける事例が多いと考えられるからである。
 厚生労働省の試算では、現行制度のまま推移すると、保険給付費は2012〜14年度には年額10.6兆円に膨らむ(注3)。介護保険は、高齢者医療の効率化をひとつの目的として導入されたはずであるが、このままでは、介護保険の財政状態は悪化する。そこで、国は介護保険制度の見直し作業を進めており、2006年 4 月より改正される予定である。改正の主なものは、@軽度者を対象とする予防給付の新設、A居住費用や食費といった施設給付の見直し、B第 1 号保険料の見直しなどである。

7.まとめ
 日本の人口問題について、@人口減少の原因は30年以上も前に始まった少子化に起因していること、今後は、A高齢化が人口減少を加速させること、B都市圏で高齢者が急増することなどを指摘した。そして、@経済規模の縮小に伴い、企業は付加価値重視の経営への転換を迫られること、A公的年金、医療保険、介護保険などの社会保障制度は、現行のままでは維持できなくなることなどを問題点として指摘した。
 少子高齢化と人口減少の同時進行というかつて経験したこのない局面を迎え、個人も企業も政府も発想の転換を図ることが必要である。そして、新たな社会システムを作り上げていくための試行錯誤を継続的に行っていくことが必要である。しかも、社会保障制度のように個別の利害が絡む問題は、その調整に多大な労力が求められる。
 これらの問題が現実化して、大きな弊害をもたらすのは、しばらく先のことかもしれない。しかし、今から対応していかないと間に合わない問題である。次代を担う若い世代に、先送りしてはならないのである。

(注1)松谷明彦「人口減少経済の新しい公式」日本経済新聞社、2004年。
(注2)イノベーション:技術革新。経済や産業の発展につながる技術や仕組みの革新。
(注3)厚生労働省 平成16年10月発表「介護保険制度における第1号保険料及び給付費の見直し」

(浅野 学)

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